そのブックマークは「資産」ですか?それとも「負債」ですか?
あなたのブラウザの片隅に溜まった、膨大な数のブックマーク。それは、あなたの知的好奇心の軌跡であると同時に、気づかぬうちに放置された「デジタルな負債」かもしれません。
「いつか役立つはず」と溜め込んだ情報の山から、いざという時に目的のページを探し出すのは至難の業。結局、見つけられずに諦め、時間をかけて検索し直す…
そんな徒労感を、誰もが一度は経験したことがあるでしょう。
実はこれ、特別な誰かの話ではありません。日々多くの方の PC サポートをする中で、本当によく目にする光景なのです。
しかし、その「とりあえず保存」の積み重ねが、あなたの貴重な時間や集中力を奪っているだけなら、まだ良い方かもしれません。もし、その古いブックマークがセキュリティ上の脅威になったり、誤った情報であなたを惑わせたりする危険性をはらんでいるとしたら、どうしますか?
さらに、AI やスマートフォンでいつでも情報が手に入る今、そもそも「ブックマークに保存しておくべき情報」の価値そのものも、大きく変わりつつあります。
前回の記事では、具体的なブックマークの整理術をご紹介しましたが、今回はその一歩手前、「なぜ、そもそもブックマークを整理する必要があるのか?」その本質的な理由を 3 つの視点から深掘りします。この記事を読み終える頃には、ブックマーク整理が単なる片付けではなく、「未来の自分への投資」であることに気づくはずです。
理由 1:マルウェア感染も?古いリンクに潜む「セキュリティリスク」
まず一番に強調したいのが、この「セキュリティリスク」です。 何年も前に登録したブックマークの URL を見てみてください。通信が暗号化されていない `http://` から始まるものが多くないでしょうか? 現在、ほとんどのサイトは安全性の高い `https://` に移行していますが、古いブックマークは当時のままです。
問題は、閉鎖されたり管理者が変わったりしたサイトです。そのドメイン(サイトのアドレス)が悪意のある第三者の手に渡り、ウイルスやマルウェアを仕込むための「罠」サイトに変貌しているケースが少なくありません。
実際に私も先日、前回の記事でご紹介した「ブックマーク チェッカー」を使って自身のアカウントを整理した際、ウイルス対策ソフトが警告を発しました。

これは、チェックのためにアクセスした古いブックマーク先の一つが、悪意のあるサイトへ強制的に転送(リダイレクト)する「トロイの木馬」に感染していたことを示しています。
もちろん、信頼できるウイルス対策ソフトを入れていれば、今回のように接続を瞬時に遮断してくれるので、実害が出ることはほとんどありません。しかし、ブックマークに残し続ける限り、リスクの種を抱え続けることになります。
【実践】もしトロイの木馬が見つかったら?安全な削除手順
もしチェック中にウイルス対策ソフトが反応しても、慌てる必要はありません。以下の手順で安全に削除しましょう。
1. ログを確認する
ウイルス対策ソフトは、検知した脅威の記録(ログ)を残しています。例えば、私が使っている「ESET」の場合、「ツール」→「ログファイル」と進み、該当のログをエクスポートすることで、どのサイトが危険だったかを特定できます。
2. 危険なサイトの URL をコピーする
エクスポートしたログファイル(XML 形式やテキスト形式)をメモ帳などで開き、脅威が検出されたサイトの URL を見つけてコピーします。
3. ブックマークマネージャで検索・削除する
Chrome のブックマークマネージャを開き、右上の「ブックマークを検索」に先ほどコピーした URL を貼り付けます。該当のブックマークが表示されたら、それを削除しましょう。
【最重要】
ログから見つけた URL を、興味本位でブラウザのアドレスバーに直接入力してアクセスするのは絶対にやめてください。あくまでもブックマークマネージャの「検索機能」を使って、安全に削除することが鉄則です。
このように、ブックマークの定期的な整理は、もはや単なる片付けではなく、見えない脅威からあなたの PC を守るための重要なセキュリティ対策なのです。
理由 2:間違った情報に振り回される「情報の賞味期限切れ」

セキュリティの次に重要なのが、この「情報の質」の問題です。インターネット上の情報は、残念ながらすべてが正しいわけでも、永遠に価値を持ち続けるわけでもありません。情報には「賞味期限」があるのです。
特に、私たちが日常的に扱う PC 関連の情報は、技術の進化とともに日に日に古くなっていきます。数年前に「最新」だったソフトウェアの使い方が今では全く通用しなかったり、かつて有効だったセキュリティ対策が今では危険とされていたりするケースは珍しくありません。
もちろん、すべての古い情報が悪いわけではありません。例えば、HTML や CSS の基本的な仕組みは何年経っても役立つ知識です。しかし、それも HTML5 や CSS3 といった新しい規格が登場すれば、知識のアップデートが必要になります。
ここで大事なのは、「古い情報」と「間違った情報」を区別することです。
古い情報は、片付けでいうところの「今は使わないけれど、思い出として取っておきたい品」のようなもの。後々、技術の変遷を調べる際に役立つこともあります。そうしたものは「アーカイブ」や「旧資料」といったフォルダに分けて保存するのも一つの賢い方法です。
しかし、「間違った情報」は、あなたの時間や労力を無駄にし、時には誤った判断へと導くノイズでしかありません。
【ヒント】「間違った情報」をどう見分けるか?
間違った情報や、もはや通用しない古いノウハウを完璧に見分けるのは困難です。しかし、ブックマークを見直す際に、以下の点を意識するだけで、そのリスクを大きく減らすことができます。
- 記事の「公開日・更新日」を確認する
最も簡単で効果的な方法です。特に技術系の記事で日付が書かれていない、または何年も前の日付のものは、内容を鵜呑みにせず「今は違うかもしれない」という視点を持ちましょう。 - 「公式サイト」や「一次情報」を当たる
個人のブログや解説記事は非常に参考になりますが、最終的にはその技術やサービスの「公式サイトのドキュメント」が最も正確です。ブックマークした記事の内容が、公式サイトの情報と一致しているか確認する癖をつけるのがおすすめです。 - 複数の情報源を比較する
一つの記事だけで判断せず、同じテーマを扱っている他の記事もいくつか探してみましょう。もし、他の多くの記事と内容が矛盾しているようであれば、そのブックマークの情報は間違っている可能性が高いと判断できます。
ブックマークの整理とは、単にリンクを削除する作業ではありません。このように情報の価値を再評価し、信頼できる情報とそうでない情報を選り分ける「情報のフィルタリング」でもあるのです。
理由 3:AI 時代だからこそ問われる「保存する価値」の見極め

最後の理由は、現代の情報収集環境の変化、特に AI とスマートフォンの進化についてです。
ChatGPT のような生成 AI の登場で、私たちはこれまでアクセスできなかったような情報、特に海外の最新技術に関する記事などを、瞬時に要約・翻訳して手に入れられるようになりました。スマートフォンの音声検索を使えば、歩きながらでも「〇〇について教えて」と話しかけるだけで答えが返ってきます。
この変化は、私たちの「ブックマーク」という行為そのものの価値を問い直しています。つまり、「その場で調べれば済む情報」と「それでもなお、手元に残しておくべき情報」を、意識的に見極める必要が出てきたのです。
AI やスマホ検索が得意なこと(=その場で調べる情報)
まず、AI やスマホ検索に任せるべき情報とは何でしょうか。
一回限りの事実確認や断片的な情報
「今日の天気」「〇〇のレシピ」「〇〇の株価」といった、その場で分かれば十分な情報です。これらをいちいちブックマークする必要はありません。
速報性が求められる最新トレンドの調査
AI は広範なネット上から最新の出来事を収集するのが得意です。海外のニュースや新しい技術の動向をざっくりと把握したい場合、AI は最高の調査アシスタントになります。
ただし、忘れてはならないのが AI のハルシネーション(もっともらしい嘘をつく現象)です。AI が提供する情報は、あくまで「たたき台」や「調査のヒント」と捉え、最終的な判断は自分で行う必要があります。
AI 時代でも「ブックマーク」すべき価値ある情報とは?
では、これからの時代に私たちが「知的資産」としてブックマークに残しておくべき情報とは何でしょうか。それは、AI には生み出せない、あなたの思考を深めるための「原典」となる情報です。
- 信頼できる「一次情報」や「公式ドキュメント」
技術の仕様書、研究機関の論文、公的機関の発表など、情報の出所が明確で信頼性が高いものです。AI の要約ではなく、原文を自分の目で読み解くことで、深い理解と応用力が身につきます。 - 個人の経験や深い洞察が詰まった「良質な解説記事」
単なる情報の羅列ではなく、筆者の試行錯誤の過程や、問題解決に至った思考のプロセスが丁寧に書かれている記事です。こうした「人の経験」から得られる学びは、AI が生成する平均的な答えよりもはるかに価値があります。 - インスピレーションの源泉となる「クリエイティブな作品集」
後で自分の仕事や創作の参考にしたいデザイン、心に響いた文章、秀逸なコードスニペットなど、論理的な検索だけでは二度と出会えないかもしれない情報です。これらは、あなたの感性を刺激し続ける、パーソナルな資料館となります。
このように、ブックマーク整理は、氾濫する情報の中から本当に価値のあるものだけを選び抜き、自分だけの「知的資産」を棚卸しする作業なのです。AI を賢く使いこなしつつ、自分だけの「書斎」を育てていく。それが、これからの時代に求められる情報整理術と言えるでしょう。
まとめ:ブックマーク整理は、未来を豊かにする自己投資
今回は、なぜ今ブックマークを整理すべきなのか、3 つの理由をご紹介しました。
- 古いリンクに潜む「セキュリティリスク」を回避するため
- 「情報の賞味期限切れ」による誤った判断を防ぐため
- AI 時代における「保存する価値」を見極め、思考を整理するため
ブックマーク整理は、もはや単なる片付けではありません。安全を確保し、思考をクリアにし、新しい時代の情報活用術を身につけるための、積極的な自己投資です。
まずは 10 分だけ、一番古いブックマークのフォルダを覗いてみませんか?
具体的な整理の手順や、面倒な作業を自動化してくれる便利なツールについては、前回の記事で詳しく解説しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
前回の記事:「あれ、どこだっけ?」はもう卒業!“死んだお気に入り”を整理する Chrome 超整理術とおすすめアプリ